小沢健二論が激アツな小説『さらば雑司ヶ谷』樋口毅宏・著 を読みました。《読書》

さらば雑司ヶ谷

豊島区の雑司ヶ谷に3年ほど住んでいたことがあって、雑司ヶ谷育ちの樋口毅宏(ひぐち たけひろ)さんの書いた『さらば雑司ヶ谷』(2009)は、かねてより読んでみたい一冊でした。

樋口さんは小沢健二ファンとしても有名で、この小説では、物語の本筋とは関係ないところで、激アツな「小沢健二論」が展開されており、オザケンファンとしても必読の一冊です。

『さらば雑司ヶ谷』では登場人物が音楽談義をかわす場面で、登場人物がオザケン論を語りだすのですが、その中で、タモリとオザケンの有名なエピソードについて書かれた一節を引用します。

「むかし、いいともにオザケンが出たとき、タモリがこう言ったの。『俺、長年歌番組やってるけど、いいと思う歌詞は小沢くんだけなんだよね。あれ凄いよね、”左へカーブを曲がると、光る海が見えてくる。僕は思う、この瞬間は続くと、いつまでも”って。俺、人生をあそこまで肯定できないもん』って。あのタモリが言ったんだよ。四半世紀、お昼の生放送の司会を務めて気か狂わない人間が!まともな人ならとっくにノイローゼになっているよ。タモリが狂わないのは、自分にも他人にも何ひとつ期待をしていないから。そんな絶望大王に、『自分にはあそこまで人生を肯定できない』って言わしめたアーティストが他にいる?」(p61)

オザケンファンの中では有名なエピソードですが、ここまで有名になったのは、この小説で書かれたことも大きいと思います。

これ、タモリさんが本当に言ったかどうか、という問題ですが、巻末の水道橋博士による解説によると、タモリさん曰く「これ書いてある通りで俺が思っている通りなんだけど、放送されてないと思うんだけど・・・なんで、この人、ここまで知ってんだろう」とのこと。

このエピソードのやり取りをテレビで「見た!」っていう人が結構いるみたいなんですけど、この解説では、笑っていいとものテレフォンショッキングのCM中に語ったことが『増刊号』で流れてたという説があるようです。

そのテレフォンショッキングを探してみたんですが、1996年1月29日のテレフォンショッキングでの会話の書き起こしが『タモリ学』を書いている戸部田誠さんのブログ記事に書いてありました。(動画は見つかりませんでした。)

オザケン:タモリさん、僕の作品をびっくりするぐらい理解していただいていて。ありがとうございました。
タモリ:いやいや、とんでもない。最近ね、ホントに歌の歌詞で「あぁ」ってなった人っていうのはね、この人しかいないのよ。あれはねぇ、本当に驚いたのよね、最近では。
よく考えられた作品だよね。あのね、まぁいろいろ優れてるんだけども、俺が一番驚いたのは鹿児島で車で出来た作品で「道を行くと、向こうに海が見えて、きれいな風景がある」。そこまでは普通の人は書くんだけれども。それが「永遠に続くと思う」というところがね、それ凄いよ。凄いことなんだよ、あれ。
オザケン:ほんっと、ありがとうございます。良かったなぁ、ちゃんと・・・。ボクは何かね、聴いてて、たとえば、今お昼休みで、笑っていいともで「ウキウキウォッチングしてるところ」と、何ていうか「人生の秘密」「生命の神秘」とか「永遠」とか、そういうのが”ピュッとつながるような曲”が書きたいんですよね。それで、だから…。
タモリ:だから、まさにあのフレーズがそうなんだよね。あれで随分・・・、やっぱり考えさせられたよ。
オザケン:ありがとうございます。
タモリ:あれはつまり「生命の最大の肯定」ですね。

これを読むと、この「いいとも」の放映を見た人は、「ああ、このエピソード知ってる!」って思いますよね。この会話の前提となる会話は、おそらくミュージックステーションに出演した際の楽屋かなんかで、プライベートでされた会話なんじゃないかなぁと推察します。ちなみに調べてみたところ、1995年11月10日のミュージックステーションにオザケンは出演して、リリースしたばかりの新曲「さよならなんて云えないよ」を披露しています。

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さらに2014年、「笑っていいとも」の終了間際の「テレフォン・ショッキング」に出演したオザケンとタモリさんの会話でもこのエピソードは語られています。

(ギターで「さよならなんて云えないよ」を披露した後)
タモリ:「さよならなんて云えないよ」っていう曲は、好きな曲なんですよ。
オザケン:ありがとうございます。あそこはタモリさんに”左へカーブを曲がると♪”って歌ったところを・・、何ていうのかな・・、そのホントに本質をバシッと突かれて、やっぱりホント、歌詞って面白いし・・・。
タモリ:面白いよね。特に(小沢くんの歌詞は)面白いよね。
(2014年3月20日笑っていいとも)

小沢健二の音楽の「よき理解者」としての二人の関係はとても素敵ですね。

『さらば雑司ヶ谷』では、「さよならなんて云えないよ」について語られておりますが、続編の『雑司ヶ谷R.I.P.』では「痛快ウキウキ通り」のトンデモ解釈(オザケン=シャブ中説)が書かれていたりしてぶっ飛びます。読んだら怒ったりするファンも多そうですが、怒らないで欲しいと思います、ええ。

と、樋口毅宏さんの『さらば雑司ヶ谷』の話が、完全に小沢健二の話になってしまいましたが、小説も面白かったですよ。

石田衣良さんの『池袋ウエストゲートパーク』を彷彿とさせる、「地元アンダーグラウンドもの」で、雑司ヶ谷を本拠地とする新興宗教「泰幸会」の教祖ババアの孫である主人公・大河内太郎が、中国から帰国し、地元の幼馴染のアウトローと再会したり、戦ったり、中国からマフィアが乗り込んできたりして大混乱、というお話です。

決してオリーブ少女的な世界観では全くないので、王子様的オザケンファンが、オザケンをフックにして読むと面食らう可能性が高いですが、「町山智浩さんや浅草キッドの水道橋博士も絶賛してる」という情報を見て、「じゃあ読んでみようかな」という感じの人であれば、楽しめると思います。タランティーノとか園子温好きに薦めたいです。

読んで欲しいのでネタバレは控えますが、初見の著者なので、正直はじめは文体がなじめなかったんですが、「小説内小説」が出てくる所があって、そこまで読んだら後は一気でしたね。

この「小説内小説」が夏目漱石オマージュで最高です。タイトル『ごころ』ですから。

雑司ヶ谷という土地に思い入れのある人はもちろん楽しめると思いますが、そうでなくても、サブカル好きなら思わずニヤッっとしてしまう、引用ネタが満載で楽しく読めると思います。そもそも

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雑司ヶ谷って土地は、石田衣良さんの「池袋」みたいなメジャー感もないし(地理的には隣ですが)、特に何か注目される要素があるわけでもないですが、単純に作者の生まれ育った土地だからってことで、描写のリアリティと醸し出される”熱”は本物です。

雑司ヶ谷は鬼子母神堂と雑司ヶ谷霊園が有名です。小説を読んで興味を持ったら、ぜひ聖地巡礼に行ってみてください。鬼子母神堂の境内にある樹齢700年と言われる大公孫樹(おおいちょう)は圧巻ですし、雑司ヶ谷霊園は、夏目漱石、小泉八雲、永井荷風といった名だたる文豪が眠っています。

雑司ヶ谷、鬼子母神堂境内にある大公孫樹です。樹齢700年の存在感は圧巻です。雑司ヶ谷に住んでるときはしょっちゅうエネルギー貰いに行ってました。(特にあっち系ではないですが)

鬼子母神堂の大木

(↓)樋口毅宏さんのコラム集です。樋口さんがオザケンについて書いた文章がすべて収録されていますので、『さらば雑司ヶ谷』と『雑司ヶ谷R.I.P.』のオザケン論に関する部分もバッチリ載ってます。他にも小沢健二との架空対談とかいうクレイジーな文章も載っています。「小説とか興味ないぜ」「オザケンの話だけ読めればいいよ」っていう方は、この本だけ読めばいいと思います。

では、最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。
もっと更新がんばります。

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さらば雑司ヶ谷

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